野草観察ノート

タシロラン(田代蘭)
Epipogium roseum
ラン科トラキチラン属
タシロランは植物でありながら自らは葉緑素を持たず、地下の菌類から栄養を得て生きている
山歩きで良く見かけるギンリョウソウやツチアケビなども同様でこれらは「腐生植物」厳密には「菌従属栄養植物」と呼ばれている
葉緑素が無いので外見は白っぽく、太陽の光も必要としないので背丈も低いものが多い(ツチアケビは例外)

タシロさんて、人の名前のようだが実際、田代善太郎氏が発見者(1906年諫早)で牧野富太郎博士が命名者だ
分布は関東以西で当初は希少な花と云われていたが、その後発見例は増えてきて現在ではそんなに珍しい花では無くなっている
恐らく人が山に入ることが少ない梅雨の時期、僅か1-2週間しか姿を見せないためにこれまで発見が遅れたのだろう
最近では温暖化の影響もあるのかこれまでは発見されて無かった東北の福島県でも発見されている

2022/07/07 福岡県耳納山系
台風一過のつかの間の晴れ間 この森のどこかに眠っているタシロランを探しに行く
タシロランはほとんどの期間を地下で暮らし地上に姿を現すのはほんの1-2週間
この間に花を咲かせ受粉をして種子を散布する
そして何もなかったかのように地上から姿を消してしまう


2022/07/07 福岡県耳納山系
会えるかな!? ドキドキしながら登っていくと去年と同じ場所に沢山でている
背丈は高い者で30cm、平均は15-20cm
地下で共生する菌はイヌセンボンの仲間である事が知られている
一応共生としているが、実際は共生菌の方は何も利益を得てないのでほとんどタシロランの略奪
それともいまだ解明されてない謎があるのだろうか?


2022/07/07 福岡県耳納山系
花の形がよくわからないなのでアップにしてみよう
紅紫色の斑点が入った薄いベールが花柄や子房を覆っている
これは苞と呼ばれる花のカバーのような部分だが咲き始めの時だけ見られてすぐに乾燥して丸まったり落ちてしまう
小さな羽のある虫が訪れているがこの花の送粉者なのか?
撮影中も訪花昆虫は多いとは言えなかったが、その割には結実率が高いので自家受粉が多いのではないかと推測されている

2022/07/07 福岡県耳納山系
アリさんもお立ち寄り

2022/07/07 福岡県耳納山系
ラン科の花としての造りを見たいのだが花弁や萼があまり開かないので難しい
紅紫色の斑点のあるゼラチン質の唇弁と先が丸くて透明っぽい筒状の距は確認できる
距の先端に液体が詰まっているようにも見えるのだが果たして蜜なのか?


2022/07/07 福岡県耳納山系
このような葉っぱや朽ち木がうず高く積もった湿気の高い場所に生育 画面の中で7本確認できる

2022/07/07 福岡県耳納山系
地中から姿を現したばかりの子を発見 高さは5cmくらいで花序は最初は下向き

2022/07/07 福岡県耳納山系
少し持ち上がってきた

2022/07/07 福岡県耳納山系
直立して茎が伸びてそれぞれが開花

2022/07/07 福岡県耳納山系
茎の一番上の花は飛び立つ鳥さんのようだ

2022/07/07 福岡県耳納山系
倒木の下からひょっこり

2022/07/07 福岡県耳納山系
かっての葉の名残り? この子たちも緑の葉を持ち自ら光合成して菌に頼らず生きていた時代があったに違いない?

2022/07/07 福岡県耳納山系
唇弁の向きが上向いたりした向いたりバラバラ

2022/07/07 福岡県耳納山系
花弁や萼の葉先が細く尖って垂れ下がっているので小さなイカを干しているみたい、と形容される方が多い

2022/07/07 福岡県耳納山系
唇弁の膨らみと丸い距が印象的

2022/07/07 福岡県耳納山系
この花はよく開いているので唇弁の奥が見える
蕊柱(ずいちゅう)が見えるがその先から細い糸につながった黄色の楕円の塊が見える
花粉塊なのか!?


2022/07/07 福岡県耳納山系
他の花も探してみた 花粉団子の見える花は少なかったがこの花はしっかり二つついている
先日コクランを観察した時花粉塊は蕊柱の先端の葯帽に収まっていた
これは蕊柱から糸状のものが出てその先で唇弁の上に転がっている
虫さんが引っ張り出したのか? 状況はよくわからないが何か珍しいものを見つけたようで嬉しい気分になった


2022/07/07 福岡県耳納山系
暗号文?

2022/07/07 福岡県耳納山系
夢中で撮影していてあっという間の2時間だった 楽しい時間をありがとう!
消えてしまわないうちにもう一度逢いに行こう

2022/07/07 福岡県耳納山系
下山時、真夏の雲の峰が立っていた


2022/07/10 福岡県耳納山系
タシロランは地下生活が長くて地上に姿を現すのは極めて短い期間という 
ならばたった3日前に見たばかりだが、もう何か変わっているかも知れない
その変化を見てみよう


2022/07/10 福岡県耳納山系
こうしてみるとラン科の花である事に納得

2022/07/10 福岡県耳納山系
先日も見たのだけれどこの虫は誰?グーグル先生はカメムシとか言ってたけど・・
カスミカメムシ?

2022/07/10 福岡県耳納山系
剣のように長くて尖ったがく片と花弁 艶めかしく美しいなー

2022/07/10 福岡県耳納山系
3日前は地上に顔を出したばかりで背丈は5cmほどだったが今日はもう20cmを超えている
しかも花も見頃でしっかり開いている


2022/07/10 福岡県耳納山系
タシロランの成長速度(3日前との比較)
Aは背丈が少し伸びて花数も増えているが花はもうしぼんでいる
  Bは一気に伸びて花が開いて見頃


2022/07/10 福岡県耳納山系
やはり咲き始めが一番開くようだ!

2022/07/10 福岡県耳納山系

2022/07/10 福岡県耳納山系
こんな感じで咲いています

2022/07/10 福岡県耳納山系
ここでは40株ほどあるが、ほとんどが今はこの状態だ
花が萎れて、てるてる坊主のようになっている


2022/07/10 福岡県耳納山系
種子を散布し始めている株がないかと探してみると
ありました子房が割れて中から種子が溢れ出ている


2022/07/10 福岡県耳納山系
これは?倒れた茎の根元にイモのようなものが向き出しになっている(塊茎)
 落枝か小動物によるものと考えられる
誤解されないようにあえて強調しますが、私が故意に引き抜いたものではありません


2022/07/10 福岡県耳納山系
近くにキノコが出ていたのでとりあえず撮影
  共生菌のイヌセンボンタケを画像検索してみると全く違っていました


2022/07/10 福岡県耳納山系
この子は超出遅れ
最終走者になりそう
元気に花を咲かせてほしい