マダニ咬傷体験とSFTS



 登山でマダニにかまれる

 昨日、登山を終え帰宅して入浴しようとした時に、ふと左足のふくろはぎの一部が赤くなっていることに気づきました。その赤くなった部分の中にゴマ粒ほど(2,3ミリ)の黒い塊があります。
 良く見るとその黒い粒は生き物で、頭部が皮膚に食い込んだ状態で足だけ小さく動いています。あまり目を近づける事が出来ない位置なのでデジカメでマクロ撮影してみました。画像を見ると正体はダニです。ネット検索するとマダニのようです。


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 これは大変なことになりました。むりやり取り除くと皮膚に食い込んだダニの一部が身体に残ってしまうとのことです。さっそくネットで除去方法を調べると
(1)酢を脱脂綿やテイシュにしみこませてダニを覆うように包み込むと酢を嫌うダニが逃げ出すという説 
(2)同様に消毒用エタノールを使用する説 
(3)殺虫剤をダニに塗るつける説 など紹介されていました。

 疑心暗鬼で(1)と(2)を試してみました。しかしながらまったく動く気配はありません。ピンセットでダニをつぶさないようにそっと根元からつまんで引き抜くなどという乱暴な説も紹介されていましたが、さすがに実行する気持ちにはなりませんでした。どの説も結論として最後には皮膚科の受診を薦めています。

 しかし今は夜で時間外。明日の朝一番で皮膚科を受診するとして、今晩就寝中に何かに引っかかってダニが折れてダニの一部が身体に残ってしまうのは困ります。一計を案じてばんそうこうの中央を緩く張って直接ダニに当たらないようにソフトカバーしました。なんだかな〜。

 本日、朝一番に皮膚科を受診しました。マダニであること、除去方法は部分麻酔で患部を切開してダニを取り除き一針だけ縫合するとのこと。なるほど、言われて見ればそれが一番合理的な方法だ。即決でお願いする。
 麻酔の時間は別にして切開、ダニ除去、縫合はわずか10分ほどで終了、麻酔が効いているため痛みはまったく感じずに済みました。試験管に入れられたダニを見せてくれてこれは検査に出しますとのこと。


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 何、検査!実はここまで触れてないのですが、今回の件で一番気にしているのはマダニが媒介するあるウイルス性の病気です。
 2011年中国で初めて報告され、発症するとなんと致死率30%という大変恐ろしい新興感染症です。

 その病名は”重症熱性血小板減少症候群”という長い病名です。「SFTS」と略称されています。
 一昨年、一般新聞でも報道されて山仲間の間でも話題になっていたので記憶にあったのです。しかしお伺いしてみると、この検査は「SFTS」とは無関係の一般的な検査のようです。

 「SFTS」は新しい病気なので現在まだ有効な薬剤やワクチンはありません。厚労省も地方の保健所も最近はホームページなどで注意喚起していますが、いずれも”マダニにかまれないにしましょう”と言うのが結論です。

 肌の露出を少なくとの注意がありましたが、当日の私の服装は上から帽子、長袖ジップシャツ、手袋、長ズボン、長めの靴下、ハイカット登山靴にロングスパッツです。どういう経路でふくろはぎ上部に達したのか不明です。また痛みも痒みも全く感じませんでした。



 それはともかく現実にマダニにかまれてしまった私として成すべき事は何か、先ず第一にマダニの除去は終了しました。これに関してはパーフェクトだと思います。

 次は今後の体調変化に注意することです。「SFTS」の発症までの潜伏期間は5〜14日間といわれてます。


 症状は初期自覚症状としては
(1)発熱
(2)消化器症状(食欲低下、嘔気、下痢、腹痛)や頭痛、筋肉痛
(3)進行すると意識障害や失語などの神経症状、リンパ節腫脹、皮下出血や下血などの出血症状などを起こします。

 最初は胃腸炎の症状ですが急激に悪化して動けなくなることもあるそうです。
病院での検査では
(4)血小板、白血球の減少
が見られるということです。

 SFTSウイルスに直接効果のある特効薬がまだ開発されていないために、現時点では確立された治療法はありません。
 そのため対症療法中心の治療を受ける中で自力で病気を乗り越える事となります。

 発熱すれば解熱剤、脱水になれば点滴、血小板、白血球が減少すれば血液製剤などで対処します。
 したがって本人の免疫力、健康状態、基礎体力が大事になります。高齢の方、持病のある方はより大きなリスクがあります。



 もちろんマダニにかまれても必ず「SFTS」を発症するわけではありません。日本国内にいる40種類ほどのマダニの中で感染源となるのはフタトゲチマダニやタカサゴキララマダニなどと見られているのですが、実際にSFTSウイルスを持っているのはそのうちの数パーセントと見られています。
 福岡県内で見つかったマダニの写真

 九州の登山者として特に気になるデーターがあります。
 2017年5月30日現在の調査ですが、全国で250人の症例のうち九州のSFTSの感染者数は全国の約4割を占めていることです。
 県別では福岡県10、佐賀県3、長崎県14、熊本県7、大分県9、宮崎県39、鹿児島県24、沖縄県1です。
 マダニは日本全国に分布しますが、九州は温暖な気候条件のため、生息数が多く活動する期間も長いことが原因と見られています。マダニが最も活動する時期は5月から8月ですが年度によってばらつきがありもっと長い場合もあります。

 九州を地盤として登山している私たちとしては誠に悩ましいことですが、冷静に対処方法を検討してゆくしかないのでしょう。

マダニ対策、今できること
国立感染症研究所昆虫医科学部


 万が一、マダニに咬まれた場合は、体調変化に注意をして少しでも異常があれば、重症にならないうちに早めに病院で受診することが重要です。受診の際はマダニ咬傷があったことを必ず医師に告げることが大切です。SFTSの検査は病院、保険所を経由して各県の環境研究所で実施されています。
 (2017年5月29日記)

 その後、毎日の体調の変化を注意深く観察してましたが、現在まで発熱はなく消化器障害も出ていません。本日は咬まれて15日目になります。とりあえず2週間の潜伏期間は経過したのでほっとしているところですが、今しばらく用心したいと思っています。
(2017年6月11日記)

SFTS詳細
国立感染症研究所ホームページ







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